欠航率70%!?南大東島を観光して分かる、不便で過酷な旅こそ魅力的な理由

旅行を考える

都市で旅行をしていると、日常で不便を感じることはかなり少なくなってきているのではないだろうか。たいていの場所に簡単にアクセスできるし、よほどのことがない限り旅の日程が大きく崩れることもない。帰ろうと思えば一日たらずで家に帰ることもできる。
しかし、日本にはそのようなまちだけではない。列車が1日4本しか来ないまち、月3回しか船が来ないまち、スーパーがないまちもある。しかしそのようなまちに、自然と吸い込まれて行くような感覚もある。
この記事では、これまで日本一周・縦断を何度も実施し、年100日旅行する「まち歩き東大生」が、各地で出会った事例を元に日本の観光・旅行を見つめ直していく。

1日2便の飛行機、船は10日に1本。南大東島に行く覚悟

私は以前、沖縄県島尻郡にある南大東島を訪問した。沖縄本島から東に400km離れた海上に位置する正真正銘の離島である。人口1400人余りの南大東村には、南大東空港があり、1日2便だけ琉球エアコミューターの飛行機路線が、那覇との間で運行されている。ほとんどの旅客は飛行機でアクセスすると思われるが、貨物輸送の多くは那覇から出るフェリーだいとうが担う。このフェリーだいとうにも人が乗船することができるが、月に3本しか運行されておらず、かつひどい時期は欠航率が70%になることもあるそうだ。公式ウェブサイトにも、変更や延期が多いので余裕をもって利用せよと書かれており、旅行で利用するとなれば、相当な覚悟が必要である。フェリーが止まると大東島にはものが入ってこなくなる。ちなみにこのフェリーは人間が貨物用のクレーンに吊るされて上陸することでも有名だ。

私は以前この南大東島にフェリーで行って、飛行機で帰ってくるという旅行を計画・実施した。幸いこの日は大東諸島が晴れ予報だったので、順調に旅が進むと思われた。実際、フェリーは定刻通り南大東島に到着し、島内の散策を行っていた。しかし、まちを歩いているとどうやら朝の飛行機が運休になったらしいという噂が聞こえてきた。その日の午後の飛行機に乗らなければならない私にとって恐ろしい知らせである。南大東空港は時期によって霧が発生しやすく、条件付き運行や欠航が多い路線なのだ。

午後の飛行機も欠航、翌日以降も満席

私はこの日、南大東島では有名な「ホテルよしざと」でレンタサイクルをさせていただいた。ホテルの宿泊者とレンタサイクルの利用者は空港まで送迎してくれることになっているので、自転車を返し終えたあとロビーで待っていた。その時、突然ホテルの方から「さあみなさん、本当の南大東島へようこそ!」との声が。3人いたが、皆その真意を察していた。その日に南大東島から出る方法がなくなった瞬間であった。飛行機はやはり午後の便も視界不良で運休になったのである。というか、そもそも使用機材が那覇から南大東空港まで移動することができなかったのだ。ホテルにはその日南大東島に入る予定だった人から宿泊キャンセルの電話が次々と入る。帰る方法を失った私たちは、キャンセルで空いた部屋に宿泊の申し込みを行う。たしか一番安い部屋で2食付き5000円くらいだっただろうか。良心的な価格設定だ。

そしてホテルの方から、飛行機の振替便の予約をするために南大東空港へ行くことを勧められた。ホテルから空港まで歩くと1時間くらいかかることから、ホテルの方のご厚意により自動車を無料で貸していただいた。空港に移動すると、多くの行き場を失った旅客がカウンターに並んでいる。その日の朝に搭乗予定だった人もいるため、翌日と翌々日分くらいまでずっと満席らしい。今ご案内できる便はありませんと言われてしまった。

急遽フェリーを予約する

私は翌々日には東京で予定があったため、なんとしても帰らなければならなかった。必死に調べてみると、ちょうど自分が乗ってきたフェリーが翌日の夕方に出航するとのことだった。港湾局に確認すると、この日のフェリーは遅れる見込みがなさそうとのことだったので、フェリーを予約し、次の日の那覇から東京へ行く飛行機も予約しなおした

次の日の夕方、無事にフェリーは出航し、翌々日の早朝に那覇港に到着した。同じく飛行機から船に乗り換えた人たちがいたようで、小さい船の中でみな仲良くなった。夕方は一緒に日の入りを拝み、朝は一緒に朝日を拝んだ。世代の違う人たちでも、南大東島という接点によって出会うことができるというのは、なんとも趣がある。

不便な旅に魅力がある

私がこの旅行で一番印象に残っているのは、やはりホテルよしざとの職員の方の「さあみなさん、本当の南大東島へようこそ!」の言葉である。私はこの言葉を聞いた瞬間、かなりイラっとしたが、次の日の夕方の船を降りるまでの膨大な時間の中でその言葉を改めて咀嚼した時、これが本当の旅なのではないか、と感じた。考えてみれば、1年中南大東島に住んでいる人は常に船や飛行機の欠航というリスクに直面しているのだ。島外に出かける予定が大きく狂うことも多いであろう。そのような島民の暮らしを知らずして、南大東島の何を知ったと言えるのであろうか。人々の暮らしを少しながら肌で感じることができたということが、何よりこの旅の思い出である。非日常の中にある日常を感じることこそが、離島旅の醍醐味ではないだろうか。

そしてもう一つの魅力は、時間の単位が長くなるということである。私は上京して以来、1分、2分という単位での動きになれてしまっていた。授業が始まるまで何分あるとか、山手線があと何分で来るとか。しかし、南大東島での滞在中は私の中で時間は少なくとも半日単位で動いていた。そのような中でいかに自分が時間に追われているのかというのに気付かされるのだ。何もしない、何もできない時間があってはじめて本当の意味で自身を見つめ直すことができるのである。

うまくいった思い出よりも、うまくいかなかった思い出の方が記憶に残りやすいというのはなんとも不思議なことであるが、このような旅はなぜかたまにフラッシュバックされる。そしてまた行きたいと思わされるのである。次はもう少し日程に余裕を持って訪れたいところだが。。。

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