「家に帰るまでが遠足」という言葉を一度は聞いたことはあるだろう。この言葉は家に帰るまで気を抜かず、安全に帰宅できることなどを期待した言葉であると思われるが、この記事ではこの言葉の意味やただしさを、年100日旅行する東大生が旅行業の観点から深ぼってみる。
旅行が終了する時点は非常に重要
旅行業者にとって旅行がいつ始まって旅行がいつ終わるのかは非常に重要な問題である。なぜなら、それが旅行会社の補償の範囲を規定するからだ。旅行業界で用いられるルール「標準旅行業約款」によれば、仮に企画旅行の参加中に旅行者が事故で負傷したり後遺症が発生したりした場合は、一部の場合を除き原則旅行会社が「特別補償金」を支払うことになっている。この場合、参加中か参加中でないかの線引きが曖昧であれば、支払うか支払わないかを明確に判断できない。この点で家に帰るまでが旅行なのか旅行ではないのかという点は、定義しておかなければならないのだ。

標準旅行業約款に定める「企画旅行参加中」
以上のような理由から、標準旅行業約款には「企画旅行の参加中」がどこからどこまでを指すのかが定められている。
まず旅行開始の時点は以下のように定められている。
添乗員等の受付がある場合 | 受付完了時 | ||
添乗員等の受付がない場合 | 最初の運送機関等 | 航空機 | 乗客のみが入場できる飛行場構内における手荷物検査等の完了時 |
車両 | 乗車時 | ||
鉄道 | 改札の終了時 | ||
改札がない場合は列車への乗車時 | |||
船舶 | 乗船手続の完了時 | ||
最初の宿泊機関等 | 宿泊機関 | 施設への入場時 | |
宿泊機関以外の施設 | 施設の利用手続終了時 |
そして旅行終了の時点は以下のように定められている。
添乗員等が解散を告げる場合 | 解散を告げた時 | ||
解散の告知がない場合 | 最初の運送機関等 | 航空機 | 乗客のみが入場できる飛行場構内からの退場時 |
車両 | 降車時 | ||
鉄道 | 改札の終了時 | ||
改札がない場合は列車の降車時 | |||
船舶 | 下船時 | ||
最初の宿泊機関等 | 宿泊機関 | 施設からの退場時 | |
宿泊機関以外の施設 | 施設からの退場時 |
集合場所へ向かうまでの移動などは「企画旅行参加中」には当たらない。そして、解散場所からの移動も企画旅行参加中に当たらないのだ。すなわち、この標準旅行業約款を参考にすると、旅行会社目線では「家に帰るまでが旅行」という言葉は正しくないということになる。修学旅行において学校の最寄駅で解散するのをイメージしていただきたいが、あの時点で旅行は終了しているのである。
なお、「最初の運送・宿泊機関等」「最後の運送・宿泊機関等」はいずれも企画旅行日程に定める中での最初・最後を指す。よって同様に旅行日程に含まれない移動は企画旅行参加中に当たらない。

あくまで補償の範囲を規定するための定義
ここまで紹介したのは、あくまで「企画旅行の参加中」の定義である。旅行日程全体をみたとき、出発地点から到着地点までの移動を旅行と捉えるのは特段おかしなことではない。家に帰るまでが旅行という考え方も間違ってはいないだろう。視点をより大きくすれば、人生そのものが旅であるといった哲学的な話にもなってくるが、この話の本筋を大きく逸脱しそうなので一旦とどめておこう。
とにかく旅行業における旅行は、あくまで契約書面に記載された日程内のみである、という単純な話である。修学旅行の解散地点で先生が「レポートを提出するまでが修学旅行だ」などと言い出してしまえば、旅行後数ヶ月分のケガや病気に対する特別補償金を旅行会社が負担するのかという話になるが、そうはならないということはしっかりと定められている、という話であった。
最後までご覧いただきありがとうございました。
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