旅行会社をつくるにはお金が山ほど必要だという話(営業保証金・基準資産額)

旅行を考える

旅行業法においては旅行会社を設立するにあたって基準資産額と営業保証金の制度が設定されている。旅行会社設立はとてつもない金額のお金がかかることになっているが、その制度について、年100日以上旅行する東大生が紹介する。

旅行業者の種類

旅行業者には第1種、第2種、第3種、地域限定の四種類があり、それぞれ取り扱う旅行の範囲が制限されている。第1種は全ての旅行を取り扱えるが、第2種では海外旅行の募集型企画旅行が実施できず、第3種では営業所がある地域以外の募集型企画旅行が実施できない。JTBさんや近畿日本ツーリストさんなどのよく聞く大手の旅行業者は第1種旅行業者である場合が多いが、その他の会社がこれらの会社と対等な立場で競争するためには比較的大きなハードルがある。なぜならそもそも旅行業界に入ることが難しい上、第1種旅行業者を設立・運営するのはさらなるハードルがあるからである。以下ではその代表的なハードルを二つ紹介する。

営業保証金制度

旅行会社には営業保証金という制度が存在する。この制度は「旅行会社を設立・運営するのであれば、供託所に一定額を供託してください」というものである。旅行は無形のサービスでありtoCのビジネスとしては比較的取り扱い金額が大きく、前払いが多い。一方旅行サービス提供会社への支払いは後払いとなることも多い。このような特性から仮に旅行会社が倒産した場合、消費者やサービス提供者の被害が大きくなる可能性が高いのである。そのような事態を防止するため、あらかじめ供託所に一定数の金額を納めてもらい、万が一の時はそこから弁済するという仕組みが取られているのであろう。

しかし、この営業保証金は非常に高額である。第1種旅行業者であれば旅行業を開始する前にまず7000万円を供託しなければならない。第2種で1100万円、第3種でも300万円必要だ。しかもこれらの額はあくまで最低額で、前年度の取引額によって供託額はさらに上昇する。よって海外旅行の募集型企画旅行を実施する会社を作る際、集めた7000万円はまず使えないのだ。

基準資産額制度

営業補償金でもなかなかであるが、さらに基準資産額という制度がある旅行会社を作るにあたっては第1種で3000万円、第2種で700万円、第3種で300万円の財産があることを証明しなければならない。この基準資産額は営業保証金を含めない額であるため、第1種の場合は1億円、第2種では1800万円、第3種でも600万円の資本金が必要であるということになる。この額の資本金を持たなければ、旅行業者を設立することはできない。なお、負債は含めないため借金などで資産を集めて来ることは認められている。

これらのことからわかる通り、旅行業界はかなり分厚く高いハードルで囲い込まれた業界であると言えるだろう。

弁済業務補償金分担金制度について

さすがに高すぎるということなのか、営業保証金については旅行業協会に加入することで、5分の1程度の額の「弁済業務保証金分担金」を預けることによって営業保証金の供託義務が免除される仕組みがある。この制度を使えば一見そのハードルが下がったように思えるが、そう単純な話ではない。まず旅行業界に入会するためには数十万円から数百万円の入会費・年会費を支払わなければならない。営業保証金や弁済業務保証金分担金は弁済がすんだら残額がかえってくるのだが、旅行業協会への会費は払いっぱなしだ。もちろん営業保証金免除以外にも苦情対応などさまざまなサービスを受けられるのでその点は総合的に判断する必要があるが、お金が必要だということは間違いないだろう。

そしてもう一つの問題は、新規に旅行業に登録した場合である。まず旅行業に登録してから旅行業協会に入会するという流れであるが、旅行業登録の際に先ほどあげた営業保証金を供託しなければならないのである。その後、旅行業協会に入会する際に弁済業務保証金分担金を納付し、6ヶ月以上の公告期間を経たのちに供託していた営業保証金を返還してもらえることになっている。よって旅行業協会に加入してから少なくとも6ヶ月間は営業保証金と弁済業務補償金分担金を二重で納付する必要があるのだ。第1種であれば営業保証金7000万円+弁済業務保証金分担金1400万円+基準資産額3000万円で1億1400万円必要ということである。行業者設立直後に旅行業協会に入会するのであれば、旅行業協会に入会しない場合以上にキャッシュを準備しなければならない

お金だけが信頼なのか

世の中では規制緩和といった話が聞こえてくることも多いが、旅行業界そのものへの参入障壁となっている可能性のある、この営業保証金や基準資産額についても将来的に検討していくことが必要ではないかと考える。そもそもお金だけが倒産に対する信頼度の基準なのであろうか。もちろん万が一の時に保証するためのお金があるということは消費者からすれば安心材料の一つであると言えるが、果たして全ての旅行業者にそれを義務付ける必要があるのであろうか。アイデアがあっても、それを旅行業としてチャレンジしにくい環境が、日本の旅行業界や観光地を停滞させないことを祈りたいところである。そして将来に向けた最善の選択肢を検討していきたい。ちなみに私の旅行仲間には、旅行会社を設立しようとして、コロナショックで諦めた人がいる。その人はその際に集めた大量のお金でほぼ毎日旅行しているらしい。そういうのもある意味いいかもしれない。

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