近年作られた新しい交通機関として「dmv」というものが存在する。この交通機関はバスと鉄道を合わせたような交通機関であるが、「brtで良いのではないか」「dmvはいらない」と考えている人も多いのではないだろうか。しかし、より広い目線で見ると、dmvの本当の有用性が見えてくる。今回はdmvがさまざまな形で酷評されたとしても、有益であると言える理由を、日本一周を3回実施した旅行系東大生が考えてみる。
dmv(デュアルモードビークル)とは何か
dmvはデュアル・モード・ビークルの頭文字を取った言葉であり、鉄道用の車輪をつけたバス車両のことを言う。ゴムのタイヤと鉄の車輪の両方がついているため、鉄道レールと一般道路の両方で車両を走らせることができるのが特徴だ。日本では徳島県の阿佐海岸鉄道において2021年に実用化されており、これが世界初の事例となる。阿佐海岸鉄道においては、かつて普通の鉄道が走っていた区間を鉄道として運行し、その前後の区間をバスモードで運行している。そして鉄道とバスを切り替える場所は「モードインターチェンジ」と呼ばれ、乗車したままで車輪の変更が1分足らずで完了する。鉄道区間とバス区間を乗り換えずにすむため、便利な交通機関だ。

dmvが批判される理由
dmvは既存の設備を活用でき、鉄道車両よりも維持費が安いなど、メリットがさまざまあるが、同時にさまざまな課題もある。
一つには、鉄道のレールを残す必要はないのではないかというものである。地方の過疎路線において、鉄道のレールを剥がし、その廃線跡地をバス専用道路として改修する「BRT化」を行う場合がある。阿佐海岸鉄道においては、わざわざ特殊な車両を作ってまで鉄道のレールを使わなくても、線路を道路に改造してBRT化すれば良いじゃないか、と言われても仕方ない。レールの維持管理コストも考えればその主張も妥当だろう。

また道路を走れるようにするため、通常の鉄道車両よりも車両が小さい。乗車定員が少なく、大量輸送という鉄道のメリットが得られなかったり、鉄道車両よりも車体が弱く危険だと言われたり、さまざま言われている。現状の日本ではBRTと比較してこれといったメリットがないと判断されているようで、dmvが導入されているのは現時点では阿佐海岸鉄道のみである。

dmvが必要な理由
私も実際に阿佐海岸鉄道に乗りに行った時、正直brtでいいじゃないかと思った。しかし、その後いろいろ考えてみるとDMVの意味も一定あるように感じた。ここからはそれについて紹介する。
理由1 線路の使い方をより広く捉えてみると…
まず一つ目には線路の使い方によっては便利になりうる、というものだ。つまり、普通の鉄道が走っている場所にdmvとして乗り入れるのだ。現状、鉄道の駅から遠い地域は、鉄道を利用する際にバスなどを使って駅に行き、乗り換えてから電車に乗る必要がある。新興のニュータウンなどがこのような状況にある場合が多い。こういった場所は都心へ行く際に乗り換えの手間がかかることから、地域の価値向上の阻害要因となっている可能性がある。このような地域のバスを、既存の鉄道路線や路面電車にそのまま乗り入れさせ、都心へ乗り換えなしで行けるようになれば便利ではないだろうか。もちろん、東京都心などでは路線許容が逼迫しているため不可能に近いだろうが、ある程度ダイヤに余裕がある地方都市などでは実現可能性があるのではないかと考える。このようにdmvを活用すれば、都心に直結する公共交通路線をかなり柔軟に組み立てることができるのだ。現在の阿佐海岸鉄道では徳島駅などの都心部に直通する列車を全て廃止し、線路も分断させた上で、線路をいわばdmv専用路線として使用している。これは車両が軽いことによる保守システムの技術的な限界によるものであるそうだが、それらが解消されるとより便利な交通機関に生まれ変わるかもしれない。

理由2 目立つことができ、地域活性化に繋がる
もう一つの理由として、dmvのような珍しい交通機関を導入すると目立つということもメリットであると言える。交通機関を交通機関以上のものとして見てみるのだ。実際、阿佐海岸鉄道dmvにおいては世界初のシステムということでメディアなどで取り上げられ、地域として目立つことができている。車両自体をめがけて訪れる(私のような)人もおり、グッズが販売されるなど、少なからず地域振興に役立っていることであろう。導入前に比べて路線の利用者が1.5倍ほどに増えたとされ、経済効果は年2億円を超えるという試算もあるそうだ。
だが「世界初」ということがいつまでもアピールポイントになるとは考えにくく、いかにして継続的な顧客を呼び寄せるかが鍵になりそうだ。
日本経済新聞 阿佐海岸鉄道DMVに関する記事
海陽町 まち・みらい課の資料

理由3 実はbrt化も大変
トンネルや橋梁などの既存設備を活用できるという点ではdmvもbrtも似ているのだが、brt化する際は幅員の狭かったり床板・ガードレールがなかったりする橋梁を、バスが走れるように改良する必要があることがある。また鉄道レールの設備を廃した普通の道路であるから、廃止されやすそうという意見もあるようだ。災害復旧のコスト削減という視点ではbrtは最適であるだろうが、わざわざbrt化するインセンティブがあまりないのかもしれない。地域住民の鉄道廃止反対運動を避けるという点でもdmvはちょうど良い、というところであろうか。
まとめ
今回はdmvについて紹介した。「いらないだろう」とか「brtで良い」といった声もある。しかし、今回挙げたような側面から見ると、全く意味のないものと断言するにはやや早いのではないだろうか。まだ新しい交通機関なので、これからどのような活用がなされるのか、注目していきたい。
最後までご覧いただきありがとうございました!



コメント